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もともと私は、ビールを注ぎたくてこの会社に入ったというわけではないんです。はるか昔の話になりますが、入社して最初の仕事はグラス洗い。1年間くらい、ずっとグラスを洗っていましたね。当時は別に嫌だとも思わなかった。とにかく忙しくて、あれこれ考える余裕などなかった。仕事なんて、そういうものだと思っていたしね。
そうこうしているうちに次のステップに…別の仕事もやらせてもらえるようになった。それが生ビール注ぎでね。当時は誰も教えちゃくれませんよ。先輩のやり方を、見よう見まねで盗むんです。そのうち、お客様から「あいつの注ぐビールは旨い」なんて言われてね。そう言われるとこっちもうれしいから、もっと旨くしようと工夫する。すると社員仲間でも「ビール注ぎは、海老原に任せよう」って感じになって、気がついたらビール注ぎの専門家になっちゃった。そんな専門職、もともとこの会社にはなかったんですけどね。
今では私の注ぐビールを飲みたいと、わざわざ私が出勤しているかどうかを電話で問い合わせてから来てくださる方もいましてね。そんな特別なことではないと思うのですが、本当にありがたいことですよ。 |
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生ビールの旨さは、泡で決まります。といっても、私はお酒が飲めなくてね(笑)。仲間や後輩に飲んでもらいながら試行錯誤してきたわけですが、注ぐ技術としちゃあ、まずは泡の量を常に一定にすること。それができたら、次は泡の「質」です。きめ細かくて、少し粘り気があって、すぐには消えない泡を作ること。ジョッキに注ぐのではなくて、自分の手の中に注ぐような感覚です。あるいは、ジョッキが身体の一部になる感じ。その意味では、40代の頃が一番いいビールを注いでいたかもしれませんね。心身ともに最高の状態でしたから。
でもね、実を言うと、注ぐ技術なんていうのは、練習すればたいていの人間が身につけられるんです。でなきゃ、「最高の生ビールを出すチェーン」として成り立たないですよ。私の本当の仕事は、ビールを注ぐ前にあるのです。
お店には容量1000Lものビールタンクがあります。ここからビールの注ぎ口までを、いかに管理するか。清潔に、なんていうのは当然。どうやったらビールを旨い状態で保てるかを、私は絶えずチェックしています。
たとえば・・・工場から直送されてきたビールは、一晩落ち着かせてあげないと使いものになりません。それから別のタンクに移すのですが、ここでどれくらいのガス圧をかけていくか。そしてタンクに残ったビールの量に応じて、またガス圧を調整します。で、そのガス圧に応じて、注ぎ方も微妙に変える。圧力が高ければビールは勢いよく出るから、泡も多くなる。もし注ぐ技術があるとすれば、ここじゃないですかね。 |
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私が注がないと旨くないってことは、生ビールの品質管理者としては失格なのです。誰が注いでも一定以上の味になるようにすることが、私の責任。それにしてもこの七丁目店は、注ぐ姿がお客様から丸見えで、目立ちますからプレッシャーがかかりますよ(笑)。注ぐときに、何か魔法みたいなことをしているわけじゃないんだけどねぇ。
私をここまで育ててくれた会社には、感謝しています。恩返しに今、若いスタッフに技術を伝授しているところです。私みたいなビール注ぎ職人は、会社にとってはイレギュラーな存在なのだろうけど、でも、そういう私の存在を許したこの会社は、懐が深いと思う。なんていうか、人を型にはめないところがあるんですよ。自由に、大らかに育ててくれる。もちろん厳しいですよ、仕事だから。でも仕事の根底に、人間味がある気がしますね。
みなさんがビール注ぎ職人を目指してみたいか、そうなれるのか、私にはわかりません。でも、私みたいな人間を育てる雰囲気の会社だってことは、確かです。ま、一度、飲みに来てみてくださいよ。固定客のついている生ビールっていうのがどんなものなのか、知っておいて損はないはずですから。 |
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